むし歯菌の出す酸が歯を溶かす、ということはよく知られていますね。
では、むし歯菌がなくても、身近な酸性の食べ物や飲み物が歯を溶かす、ということはご存じですか?
でも、大丈夫。
ちょっとした知識があれば、効果的な予防法であなたの歯を守ることができるのです。
酸蝕 VS 唾液の働き
酸蝕とは…
「むし歯菌が出す酸によって歯が溶ける」のがむし歯。
酸蝕とは、それとは違って、酸性の食べ物や飲み物に歯が触れることで起こる。
じつは、どんな人でも日常的に酸の影響を受けてはいるのだが、唾液の力によってエナメル質が補修され、そのバランスが保たれているおかげで歯の健康が維持されている。
でも、そのバランスが崩れて、酸の影響を過剰にこうむるようになったときに、酸蝕という問題がおきてくる。
その度合いが大きいものを、将来問題になりそうだというものも含めて「酸蝕歯」と呼んでいる。
唾液の力…
口のなかのpHは、ふつう唾液の力によって中性(約pH7)に保たれている。
しかし、酸性の食べ物・飲み物を口に入れると、当然ながら口の中は酸性にかたむき、エナメル質が溶けはじめる。
これを「脱灰」という。
しかし一方では、唾液が酸を中和して、唾液に含まれるカルシウムなどにより歯を修復してくれる。
これを「再石灰化」という。
通常はこの「脱灰+再石灰化」のバランスが保たれて、歯の健康が維持されている。
でも、酸性の飲食物に長く、あるいはしばしば触れたり、唾液の減少などが原因で再石灰化が進まないと、バランスは崩れ、脱灰が進行してしまう。
これが典型的な「酸蝕歯」です。
こんな食習慣と生活習慣にご用心!
酸蝕歯になりやすいかどうかは食習慣、そして生活習慣によります。
ふつうは、頻繁に酸に触れないかぎり酸蝕歯にはなりません。
でも、毎日続けているライフスタイルのなかに酸蝕歯になるリスクが含まれていると知らぬうちに繰り返されて悪化します。
よくあるリスク習慣をあげてみましょう。
①毎日のジョギング後の水分補給にビタミンドリンクや黒酢ドリンクを愛飲している。
健康意識の高いかたで、スポーツの後の水分補給に黒酢ドリンクやビタミンドリンクなどを愛飲なさっているかたがいます。
からだにはよくても、じつは歯が溶けやすい習慣で注意が必要です。
走った後は、口の中がカラカラ。しかも汗をかいて体内の水分か減ると、唾液の分泌量はぐっと減っています。
こうして唾液の力が弱まっているときに習慣的に酸性の飲み物を飲むと、酸蝕歯になりやすくなります。
②部活中、熱中症予防のため頻回に、少量ずつスポーツ飲料を飲んでいる。
ことに暑い季節のスポーツでは、熱中症や脱水症状などにならないよう、水分をこまめに摂ることがとても重要です。
でも、この飲み物がもしも酸性に強いスポーツ飲料なら、歯の健康が心配です。
こまめに飲むと、歯と酸との接触時間がふえ、しかも部活になると、毎日、数時間にわたり飲むことになります。
ことに中高生の場合、奥歯の永久歯は生えたてで軟らかく、成人の歯に比べてとくに溶けやすいのです。
③朝食は必ず健康のためにグレープフルーツを食べその直後に歯磨きしている。
毎日の食事や生活スタイルを習慣化して、同じサイクルを繰り返すことで体調管理に役立てて、健康に気を配るかたは多い事でしょう。
しかし、酸蝕症のリスクがそのサイクルのなかに組み込まれていると、良かれと思ってしている事が、酸蝕歯の原因になってしまうこと
があります。
柑橘系のくだものはとくに酸性度が高く、エナメル質を軟化させます。そこへゴシゴシと歯磨きをすると、エナメル質が過剰に削られて
しまうのです。
④赤ちゃんがぐずるとき哺乳瓶でジュースを飲ませると満足してよく寝てくれる。
赤ちゃんの生えたての乳歯は軟らかく酸性の飲み物に対してとくにデリケートです。
甘い飲み物が好きな赤ちゃんに、ほしがるたびに哺乳瓶やマグでくだもののジュースを飲ませていると酸蝕症のリスクがたいへん高く
なります。
ことに眠れずにぐずることに飲ませ、赤ちゃんかそのまま寝てしまうことになると、寝ている間は唾液量が減るので、口の中に酸が長く
留まってしまうのです。
⑤仕事で運転中は、やっぱり大好きなコーラ。信号で止まるごとに飲む。
市販の清涼飲料水のなかでも、とくに酸性の強い飲料にコーラがあります。以前はビンに入っていて一気に飲むイメージでしたが、最近
はペットボトル入りになって、すこしずつ飲むのに便利になりました。
でも、「少しずつ」飲むと、酸と歯が接触する時間が結果的に長くなり、酸蝕歯のリスクが高まってしまいます。ことに、仕事で日常的に
運転をしているかたは、停車するごとに少しずつ飲むことが多いでしょう。注意が必要です。
⑥お酒はチューハイかワイン。チビチビ飲むのが好きでつまみはいらない。
柑橘系の果実の入ったチューハイやワインは、口当たりがよく飲みやすいお酒です。でもこれを毎日晩酌にチビチビと飲み続けると、
酸蝕歯のリスクが高まります。お酒は少しずつ飲む方が、からだへの負担が少ないですが、酸に触れる時間が長くなるため、歯への
負担が増えます。つまみを食べれば、まだしもその刺激で唾液の分泌が促進される可能性もありますが、つまみなしでは、唾液の力に
すがる一縷の望みも断たれます。

自分でできる酸蝕予防は?
酸性の飲食物を口にしたらそのあとすぐ水やお茶を飲む。
酸が口の中に長く残らないよう、ことに酸性度の高いものを口にしたあとは、水やお茶で口をすすぐつもりで飲むとよいでしょう。
健康のために酢やビタミンCドリンクなどを毎日飲む習慣を続けたいかたは、この方法をぜひ取り入れて下さい。
チビチビ飲むより、グッと飲みきる方がリスクを軽減できます。
また、カプセル入りのサプリメントなら、酸蝕の心配がありません。
酸っぱいものを食べたら30分ほど歯磨きを控える。
食後すぐの歯みがきは、本来はむし歯を予防するためのとてもよい習慣です。
ただし、酸に触れて軟らかくなっている歯をゴシゴシと磨くと、エナメル質の表面が削れてしまいます。
そこで、酸っぱいものを食べた後は、まずお茶を飲み、唾液の力で軟化がおさまる30分ほど後に歯をみがくとよいでしょう。
とくに、毎日の朝食にグレープフルーツなどの柑橘系のくだものを摂るかたは注意が必要です。
軟らかい歯ブラシを使う。
軟らかい歯ブラシを使い、ゴシゴシ磨きをしないようにしましょう。
オススメは、日本の歯科専売メーカーのソフトタイプ。技術・工夫とも世界でピカイチです。1本1本の毛が軟らかく、植毛がみっちりされ
ているので、ソフトですがプラークがしっかりと落ちます。
ネックに弾力があるタイプはさらにGOOD!弾力が力を和らげ歯を傷めにくい構造だからです。

フッ素入り歯みがき剤やジェルを使う。
フッ素入りの歯みがき剤を使って、エナメル質をケアし歯質を強くしましょう。
近ごろでは、たいていの歯みがき剤にフッ素が入っています。念のためお使いの歯みがき剤の表示を確かめてみてください。
また、酸蝕歯予防専用の歯みがき剤も販売されています。歯みがきの後には、研磨剤の入っていないフッ化入りのジェルを歯に塗る
とより効果的です。

口が渇いてるときは酸性の飲み物を避ける。
スポーツ直後の口が渇いているときには、唾液が減り、再石灰化の作用が充分に働きません。
強い酸性の飲み物は避けてください。また、日常的にドライマウスの傾向のあるかたは、強い酸性のものを口にする際には注意が必
要です。強い酸性の飲食物は避けていただきたいものです。
健康飲料としての酢やビタミンCの摂取には、カプセル入りのサプリメントをおすすめします。
赤ちゃんに哺乳瓶でジュースを飲む習慣をつけない。
赤ちゃんはジュースやイオン飲料が大好き。でも哺乳瓶でこうした飲み物を飲む習慣がつくと、生えたての乳歯はたいへんなダメージ
を受けます。ちょうど飲み物に触れやすい前歯の裏側が溶けてしまうのです。
乳歯は、永久歯が生えてくる際に先導役を果たす大切な歯。守ってあげたいですね。
なお、熱を出したときなど、こまめなイオン飲料の摂取が必要な場合には、その後、それが習慣化しないよう気をつけましょう。
歯科医院がご提供する酸蝕の予防策はより積極的にエナメル質を守るためにたいへん効果が高いものです。
気軽にはじめられる再石灰化を促進する歯のパック
歯が溶けやすい飲食物があることを知って驚かれたかたもいることでしょう。
でも、「知ること」こそ予防の第一歩。
エナメル質へのほんの少しの気遣いがあなたの歯を守り続けて長いあいだにはきっと違いが出るはずです。